児童の生活技術の習得過程について−家庭生活での実践と自信度との関連性を中心に−

 

佐藤 希

 

テキスト ボックス: 目次
第1章	本研究の意義と目的
第2章	調査方法、調査対象者及び調査方法
第3章	質問紙調査の結果と考察
第4章	実技調査の結果と考察
第5章	質問紙調査と実技調査とを合わせた結果と考察
第6章	まとめと今後の課題
1. 本研究の目的 生活技術は、「自己を見つめなおし、自己形成を促す」、「自信をはぐくむ」などといわれている。生活技術を身につけることは家庭科の重要な目標であるが、同時にそれは日常の中でも育まれている。そこで本研究の目的を、第1に家庭科の履修学年及びそれ以前との相違に注目し、「家庭での生活技術の実践頻度」と「生活技術の習得の度合い」との関連を明らかにすること、第2に「家庭での生活技術の実践頻度」、「生活技術の習得の度合い」と、「自信度」や「生活への積極性」との関連を明らかにすることとした。

 生活技術に関する先行研究は、田結庄(1984)、米川(1985)、谷田貝ら(1986)、家庭科教育学会(2001)などのものがあるが、それらは頻度を中心としたもの、習得度合いを中心としたもの、意識を中心としたものであり、それらの相互の関連について分析している研究はない。そこで、本研究では、実技調査による技術の習得度合いとともに質問紙調査による頻度、意識、それらの諸要素の相互連関を総合的に分析することに独自性がある。

2. 研究方法 質問紙調査で、「家庭での生活技術の実践頻度」、「家庭の仕事への意識」、「自信度」、「生活への積極性」に関する項目を調査した。すべての質問は4件法で回答してもらい、その結果を得点化し分析した。実技調査では、「きゅうり切り」「タオル絞り」「洋服たたみ」という衣食住それぞれ1種類ずつの生活技術を取り上げた。「きゅうり切り」については、田部井らの分析方法や、松浦らの分析方法を参考にし、「包丁の持ち方」「きゅうりの押さえ方」「包丁と手の位置」「切ったきゅうりの枚数」「正確さ」の5つの観点から評価した。「タオル絞り」については、谷田貝らの分析方法を参考にし、「タオルのたたみ方」「タオルの持ち方」「手の使い方」「絞ったあとのタオルの重さ」の4つの観点から評価した。「洋服たたみ」については、先行研究がなかったため、他の2つの技能調査の観点を参考にし、児童の実技を見たうえで、「しわをのばしているか」「平らにたためているか」「収納の様子」「たたみ方」「たたむのにかかった時間」の5つの観点から評価した。

3. 調査対象、調査時期 質問紙調査の対象は、国立大学附属小学校1校、都内公立小学校2校の2,4,6年生の計532名である。調査時期は、国立大学附属小学校6年生は平成16年2月、それ以外は平成16年7月である。実技調査の対象は、質問紙調査を行ったもののうち、国立大学附属小学校の2,4,6年生の計231名である。調査時期は、6年生は平成16年2月に、それ以外は平成16年7月である。

4. 研究仮説 本研究の仮説は、第1に「家庭での生活技術の実践頻度」は学年進行とともに高くなっており、性別、母親の雇用形態、親の態度によっても異なる、また「自信度」「生活への積極性」「仕事への姿勢」は学年、性別、母親の雇用形態、親の態度によって異なるということ、第2に「生活技術の習得の度合い」は学年、性別、母親の雇用形態、親の態度によって異なるということ、第3に「家庭での生活技術の実践頻度」が高い者ほど「生活技術の習得の度合い」が高いということ、第4に「家庭での生活技術の実践頻度」「生活技術の習得の度合い」が高い者ほど「自信度」「生活への積極性」「仕事への姿勢」が高いということである。

5. 結果 ここでは、紙面の関係上、主な結果について述べていく。

@ 質問紙調査の結果 「家庭での生活技術の実践頻度」は、学年進行とともに高くなっており、特に6年生で頻度が高い者の割合が増えていた。「針と糸を使う」などの日常生活であまり行われていない項目の「まったくしない」と答えた児童の割合が6年生で減少していた。「自信度」「生活への積極性」「仕事への姿勢」は、6年生になると低くなっていた。以上より、仮説1は検証された。

A 実技調査の結果 「生活技術の習得の度合い」に関しても、「きゅうり切り」「タオル絞り」「洋服たたみ」のすべてにおいて、学年進行とともに習得度が高くなっていた。以上より、仮説2は検証された。

B 「家庭での生活技術の実践頻度」と「生活技術の習得」との関連 「家庭での生活技術の実践頻度」と「生活技術の習得の度合い」との間には、頻度が高い者ほど習得の度合いも高くなっているという関係が見られた。以上より、仮説3は証明された。

C 「家庭での生活技術の実践頻度」「生活技術の習得」と「自信度」「生活への積極性」「仕事への意識」との関連 「家庭での生活技術の実践頻度」と「自信度」「生活への積極性」との間には実践頻度が高い者ほど、自信度が高いという関係が見られ、その差は有意であった。「生活技術の習得の度合い」と「自信度」「生活への積極性」との間には、有意な差は見られなかった。よって、仮説4は一部証明され、一部棄却された。

4. まとめと考察 本調査から、導かれたことは以下の4点である。第1に、6年生で「家庭での生活技術の実践頻度」が高い児童が増えており、特に「針や糸を使う」など日常生活であまり行われていない項目で「まったくしない」と答えた児童の割合が減ることから、家庭科の学習は家庭での生活技術の実践のきっかけになっているということである。第2に、生活技術の習得の度合いは学年進行とともに高くなっていたことから、生活技術は発達段階に応じて習得されている側面があると考えられる。また、年齢が上がるとその分生活経験が豊かになっているので、そのことも習得に影響していると考えられる。第3に、「家庭での生活技術の実践頻度」が高いほうが「生活技術の習得の度合い」が高いということから、生活技術の習得には家庭での生活技術の実践頻度が重要であるということである。家庭科の学習は生活技術の習得を目的のひとつとしているので、家庭での実践を促すような工夫が重要であろう。第4に、「自信度」や「生活への積極性」は、「家庭での生活技術の実践頻度」に関連していたことから、自信度や生活への積極性を高めていくためには、家庭で生活技術を実践することが有効であるということである。家庭での生活技術の実践は、さまざまな要素を持ち合わせている。例えば、家族との交流や、対象に働きかけて生活をよりよくするといった確かな手ごたえ、自分の仕事を遂行する責任感などがあげられる。これらの経験を最も身近な家庭で行うことにより、例え技術が身につくにいたっていなくとも、児童の自信度や生活への積極性は高まったのではないだろうか。このように、「自信度」「生活への積極性」には、「家庭での生活技術の実践頻度」が関連していた。よって、「家庭での生活技術の実践頻度」が高くなるような工夫が必要であると考える。